はじめに:なぜリレーからトランジスタに変えるの?
これまでのリレーは、小さな電気で大きな電気を流す、非常に優れた「自動スイッチ」でした。しかし、リレーには次のような弱点があります。
- 物理的な大きさ: サイレンの数が増えたり、機能が複雑になったりすると、リレーが何個も必要になり、場所を取ります。
- 作動音: カチカチとON/OFFの音が鳴るため、設置場所によってはセキュリティ上、不利になることがあります。
- 寿命: スイッチ部分が金属なので、使い続けると摩耗します。
そこで登場するのが「トランジスタ」です。
部品 | 役割 | メリット | デメリット |
リレー | 物理的なスイッチ | 仕組みが簡単、大きな電流も確実に制御できる。 | 大きい、作動音がある、寿命がある。 |
トランジスタ | 電気的なスイッチ | 小さい、作動音がない、高速でON/OFFできる、長寿命。 | 仕組みが少し複雑、制御できる電流に限界がある。 |
今回は、小型化を目指すため、リレーの代わりにトランジスタを使ってサイレンをON/OFFするスイッチを作ります!
🛠️ 新しく追加する電子部品
今回の主役は「トランジスタ」です。サイレン(大電流)を扱うため、特に大電流に対応できる強力なトランジスタを選びます。
新しい部品名 | 役割(車の部品に例えると) | なぜ必要か |
1. パワートランジスタ | 大電流のスイッチ(超小型の自動スイッチ) | サイレンのような 大きな電気(大電流) をON/OFFするために使用します。今回は「MOSFET(モスフェット)」と呼ばれる種類のトランジスタが最適です。 |
2. 抵抗 | 電気の流れを制限(水の絞り弁) | トランジスタに流し込む 「制御用の電気」の量を適切に調整 するために使用します。この部品がないとトランジスタが壊れます。 |
3. ヒートシンク | 熱の逃げ場(部品の冷却ファン) | トランジスタはスイッチング時に熱を持つため、その熱を逃がしてあげるための金属板。小型化しても熱対策は必須です。 |
💡 今回はリレーをトランジスタに置き換える! これまでの回路図で使っていたリレー2(サイレンリレー)の役割を、このパワートランジスタに置き換えます。 自己保持リレー(リレー1) は、そのままの分かりやすさを活かすため、今回はリレーのままとします。
⚡ トランジスタの仕組み(シンプル図解)
トランジスタ、特にMOSFETのスイッチとしての働きは、非常にシンプルです。
1. トランジスタの3つの部屋
MOSFETには、電気の出入り口が3つあります。
部品名 | 役割(水のスイッチに例えると) |
ソース(S) | 水が流れ出す場所(サイレンのマイナス側) |
ドレイン(D) | 水が流れ込む場所(電源のマイナス側) |
ゲート(G) | 制御棒(スイッチON/OFFの操作盤) |
2. スイッチとしての働き
- 電源OFFの状態: ゲート(G)に電気が流れていないときは、ソース(S)とドレイン(D)の間は遮断されており、サイレンには電気が流れません。
- 電源ONの状態: リレー1(自己保持リレー)からゲート(G)に微量の電気が流れると、その電気の力でSとDの間が完全に繋がり、サイレンに大電流が流れ始めます。
🔑 ポイント: トランジスタはマイナス(アース)側のスイッチとして使うのが基本です。サイレンのプラス側はバッテリーに直接繋ぎ、マイナス側をトランジスタでON/OFFします。
⚙️ トランジスタを組み込んだ全体の配線図
前回の回路から「リレー2(サイレンリレー)」を取り除き、代わりに「パワートランジスタ」と「抵抗」を組み込みます。
配線の重要な変更点
今回は、サイレン回路の配線を大胆に変更します。
1. サイレン回路(プラス側)
- 【変更】 サイレンのプラス(+)側は、ヒューズを介してバッテリーのプラス(+)に直結します。
- 役割: サイレンのプラス側は常に電気が来ています。
2. サイレン回路(マイナス側)
- 【変更】 サイレンのマイナス(-)側を、 パワートランジスタのドレイン(D) に繋ぎます。
- パワートランジスタの ソース(S) を、 車体のアース(-) に繋ぎます。
- 役割: ゲートに電気が流れない限り、このマイナスへの道が途切れているためサイレンは鳴りません。
3. 制御回路(リレー1の出力をトランジスタへ)
- 【新設】 リレー1(自己保持用)のONになったスイッチの出力から出たコードを、抵抗を介して パワートランジスタのゲート(G) に繋ぎます。
- 役割: リレー1がONになると、その信号が抵抗で調整され、トランジスタのゲートに流れ込み、サイレン回路のマイナス側のスイッチがONになります。
⚠️ 抵抗の役割(最重要) リレー1からの電気をそのままトランジスタのゲートに入れると、トランジスタが高熱になったり、壊れたりする可能性があります。適切な抵抗を挟むことで、ゲートに流し込む制御電流を安全な量に制限するのです。抵抗の値(例:1kΩ程度)は、使用するトランジスタによって異なりますが、安全のために必ず挟みましょう。
🛠️ 組み立て手順:トランジスタの組み込み!
今回は部品が小さく、熱対策も必要です。慎重に作業を進めましょう。
ステップ 1:トランジスタの準備と熱対策
- ヒートシンクの取り付け:パワートランジスタの背面に、熱伝導グリス(熱を伝えやすくするペースト)を薄く塗り、ヒートシンク(金属板)をネジなどでしっかりと固定します。
- 固定と絶縁:トランジスタとヒートシンクは熱くなるため、他の配線や車体の金属部分と接触しないよう、絶縁テープや絶縁シートで保護し、安全な場所に固定します。
ステップ 2:サイレン回路の接続
- サイレンのプラス直結:サイレンのプラス(+)コードをヒューズ経由でバッテリーのプラス(+)に直結します。
- トランジスタの組み込み:サイレンのマイナス(-)コードを トランジスタのドレイン(D) に繋ぎます。そして、 トランジスタのソース(S) を車体のアース(-)に繋ぎます。
ステップ 3:制御回路の接続
- 抵抗の接続:前回までのリレー1(自己保持)のONスイッチの出力から出たコードの途中に、抵抗を繋ぎます。
- ゲートへの接続:抵抗を通過したコードを、 トランジスタのゲート(G) に繋ぎます。
- 🔑 これで、リレー1からの微弱な信号が、サイレンへの大電流をON/OFFするスイッチの役割をトランジスタに引き継ぎました!
4. 自己保持とタイマー回路の確認
- 今回の変更はサイレンをON/OFFする部分だけです。前回までの 自己保持リレー(リレー1)とタイマーリレー(リレー3) は、そのままの配線で動作することを確認してください。
✅ 動作テストと確認(小型化編)
全ての配線が確実に行われているかを確認後、バッテリーを繋いでテストを行います。
1. 警戒状態へ
- 主電源スイッチをONにします。
2. トリガーのテスト
- キーを回し、エンジンを始動させます。
- → 大音量のサイレンが鳴り響くことを確認!
- 💡 成功の証: これまでのリレーの「カチカチ」という作動音が全く聞こえないことを確認できたら大成功です。
- エンジンを切ります。
3. 自己保持とタイマー停止の確認
- エンジンを切ってもサイレンが鳴り続けること(自己保持)を確認します。
- 設定時間が経過した後、自動でサイレンが鳴り止むこと(タイマー)を確認します。
4. 最後に熱の確認
- サイレンが鳴っている間、そして鳴り止んだ後、パワートランジスタとヒートシンクに触れて(火傷に注意し、短時間で)、異常な熱を持っていないかを確認します。少し温かい程度ならOKですが、触れないほど熱くなっていたら、配線や部品に問題がある可能性があります。
🌟 まとめと次回予告
番外編として、パワートランジスタ(MOSFET)を使った超小型スイッチングに挑戦しました。これで、あなたのカーセキュリティは、従来の大型なリレーボックスから解放され、より小型で静かな、プロ仕様に近い電子制御システムへと進化しました。
回路は少し複雑になりましたが、基本はリレーと同じ「小さな電気で大きな電気を動かす」という原理です。この技術を身につければ、今後の電子工作の幅が格段に広がります。
次回予告!
いよいよ最終回となる第三回は、今回少し触れた 「多重防御」に本格的に挑戦します。振動センサーやドア開閉センサーなどの「トリガー」を増やして、セキュリティの監視範囲を広げましょう!もちろん、この小型トランジスタスイッチング を組み込んだ最終形として完成させます。お楽しみに!