はじめに:なぜサイレンを「鳴り続けさせる」必要があるの?
前回の装置では、もし窃盗犯が不正にエンジンをかけたとしても、サイレンが鳴り始めた直後にエンジンを切ってしまうと、サイレンも止まってしまいました。
これでは、犯人は「ちょっとうるさかったけど、すぐに止まったから大丈夫」と、落ち着いて再び盗みを続行できてしまいます。
真に効果的なセキュリティとは、犯人をパニックに陥らせ、その場から逃走させることです。そのためには、一度鳴り始めたサイレンは、オーナー自身が解除するまで、大音量で鳴り続ける必要があります。
今回の目標は、次のとおりです。
目標とする動作:
- 車に不正侵入し、エンジンが始動する(トリガー)。
- サイレンが鳴り始める。
- エンジンが切られても、サイレンは鳴り続ける。
- オーナーが車に戻り、 秘密のスイッチ(解除スイッチ) を押すと、サイレンが止まる。
この魔法のような仕組みを実現するのが、電子工作の基本中の基本である「自己保持回路」です!
🛠️ 新しく追加する電子部品
前回の部品(サイレン、リレー、主電源スイッチ、コード、ヒューズ)に加えて、今回はたった2つの新しい部品を追加するだけでOKです。
新しい部品名 | 役割(車の部品に例えると) | なぜ必要か |
1. もう一つの12Vリレー | 自己保持(指を離さないスイッチ) | 「一度ONになったら、ONの状態を自分で維持する」という魔法のスイッチを作るために使用します。最低2つのリレーが必要です。 |
2. プッシュ式スイッチ (モーメンタリスイッチ) | 解除ボタン(魔法を解くボタン) | オーナーがサイレンを止めるための、押している間だけOFFになるスイッチです。普段はON(電気が流れている状態)の「常時ON(NC)」タイプが適しています。 |
💡リレーは2つ必要! 前回のリレーを「サイレンON/OFF担当」(大電流スイッチ)とすると、今回追加するリレーは「自己保持担当」(制御スイッチ)の役割を持ちます。
⚡ 自己保持回路とは?(シンプル図解)
自己保持回路は、電気の世界の「ループ」と「自分の力を自分で使う」というシンプルなアイデアでできています。
1. 「自己保持」のイメージ
例えるなら、自分で自分の背中を支えているような状態です。
- スタート(トリガー): 友達(エンジンON信号)があなたの背中を押します。
- 自己保持: あなたはすぐさま、自分の手で壁(リレー)を押して、その姿勢(ONの状態)を維持します。
- 結果: 友達が手を離しても(エンジンが切られても)、あなたは壁を押して立っていられます。
- 解除: 他の誰か(オーナーの解除スイッチ)があなたの手を壁から引き離すと、あなたは姿勢を崩します(回路がOFFになる)。
2. 回路図の進化:2つのリレーの役割
前回の回路に、この「自己保持」の仕組みを組み込みます。
リレー名 | 役割 | 接続される回路 |
リレー1 | 自己保持リレー (制御の番人) | 信号(トリガー)が来るとONになり、そのONの状態を自分で維持し、サイレンリレーに信号を送り続ける。 |
リレー2 | サイレンリレー (大電流の番人) | リレー1からの信号を受け取り、大電流のサイレンをONにする。 |
⚙️ 新しい装置の全体配線図
複雑に見えますが、前回のリレーを動かす信号(コイル)の部分に、新しいリレーとスイッチを追加するだけです。
配線の重要な変更点(自己保持回路の組み込み)
特に重要なのは、「リレー1(自己保持用)」周りの配線です。
1. トリガーの道(エンジンON)
- 【変更なし】 エンジンONで電気が流れる線(フューエルポンプなど)が、リレー1のコイルに電気を流し始めます。
2. 自己保持の道(ループ)
- 【新設】 リレー1のスイッチ側(「電気が流れていない時OFF、流れる時ON」の端子、通称NO端子)を使います。
- このNO端子と、リレー1のコイルの間に、コードを一本繋ぎます。
- 役割: 一度リレー1のコイルに電気が流れてONになると、このNO端子もONになるため、ONになった電気が自分のコイル自身に電気を供給し続けるループが完成します。
3. 解除スイッチの設置
- 【新設】 上記の「自己保持の道(ループ)」の途中に、オーナーの解除スイッチ(常時ONタイプ)を挟み込みます。
- 役割: 普段は電気が流れていますが、オーナーが押すと電気が止まり、ループが途切れてリレー1がOFFになり、サイレンが鳴り止みます。
4. リレー2(サイレン)の起動
- 【変更点】 リレー2(サイレンリレー)のコイルへの電気は、リレー1のONになったスイッチの出力から供給されます。
- 役割: リレー1が自己保持でONになっている限り、リレー2もONになり続け、サイレンが鳴り続けます。
🛠️ 組み立て手順:自己保持を組み込む!
今回は2つのリレーを同時に扱うので、配線の取り間違いに注意しながら進めましょう。
ステップ 1:リレー1(自己保持)周りの配線
- リレー1のコイルにトリガーを繋ぐ
- エンジンONで電気が流れる線(フューエルポンプなど)を、リレー1のコイル端子の一つに繋ぎます。
- もう一方のコイル端子はアース(車体)に繋ぎます。
- 自己保持のループを作る
- リレー1のスイッチ側のうち、電源が入力される端子(通称「コモン」端子)から、解除スイッチの片側に線を繋ぎます。
- 解除スイッチのもう一方から、リレー1のスイッチ側の ONになると電気が流れる端子(NO) に繋ぎます。
- そして、そのNO端子から出たコードを、リレー1のコイルのトリガーが入力されている端子と同じ箇所に繋ぎます。
- 🔑 これが自己保持のキモです!
ステップ 2:リレー2(サイレン)周りの配線
- リレー2のコイルにリレー1の出力を繋ぐ
- リレー1のNO端子から出ているコードを、リレー2のコイル端子の一つに繋ぎます。
- リレー2のもう一方のコイル端子はアース(車体)に繋ぎます。
- 役割: リレー1がONになっている間、リレー2のコイルに電気が流れ続けます。
- サイレンをリレー2に繋ぐ
- 【前回と同じ】 バッテリーからのプラス(+)線をヒューズを介してリレー2のスイッチに入力し、出力側をサイレンのプラスに繋ぎます。サイレンのマイナスはアースに繋ぎます。
ステップ 3:主電源スイッチと解除スイッチの設置
- 主電源スイッチ(ON/OFF): 装置全体への電源供給を断つためのスイッチ。これは、リレー1とリレー2の全ての電源の最も上流(バッテリー側)に設置します。(前回と同じ)
- 解除スイッチ(プッシュ式): 上記ステップ1で作った自己保持ループの電源線(リレー1のNO端子につながっている線)の途中に設置します。普段は目につかない、オーナーだけが知る秘密の場所に隠しましょう。
✅ 動作テストと確認
サイレンと配線が車体に固定されていることを確認してから、バッテリーを繋ぎ、動作テストを行います。
1. オーナー用スイッチをONにする(警戒状態へ)
- 主電源スイッチをONにします。
2. トリガーのテスト(エンジン始動)
- キーを回し、エンジンを始動させます。
- → 大音量のサイレンが鳴り響くことを確認!
- すぐにエンジンを切ります。
3. 自己保持のテスト(鳴り続けの確認)
- エンジンを切った後も、サイレンが鳴り止まらずに継続していることを確認します。
- 🔑 ここが成功の証です! エンジンからの信号(トリガー)が途切れても、リレー1の自己保持ループがONの状態を維持しているためです。
4. 解除のテスト
- 秘密の解除スイッチを探して、短く一回押します。
- → サイレンが鳴り止むことを確認します。
- サイレンが止まったら、リレー1のコイルへの自己保持ループの電気が完全に切断されたことになります。
⚠️ 自作セキュリティの応用とさらなる進化
自己保持回路を理解すると、あなたのカーセキュリティは格段に進化します。
応用 1:鳴り続ける時間を設定する
ずっと鳴り続けると近隣に迷惑がかかる可能性もあります。市販のタイマー回路(一定時間後に自動で電力を遮断する装置)を、リレー1からの電源とリレー2の間に挟むことで、「一度鳴ったら5分後に自動停止」といった機能も追加できます。
応用 2:トリガーを増やす
トリガーはエンジンONだけではありません。
- ドアの開閉検知:ドアが開くと電気が流れる線(ルームランプの線など)をトリガーに加える。
- 振動センサー:車体を叩いたり揺らしたりするとONになるセンサーをトリガーに加える。
複数のトリガーをリレー1のコイルに並列(並行)に繋ぐことで、「どれか一つでも異常が発生したらサイレンが鳴り始める」多重防御システムを簡単に構築できます!
🌟 まとめと次回予告
今回は、電子工作の基本技術である自己保持回路を使い、より実用的な「鳴り止まないサイレン」を実現しました。これにより、犯人に逃げる時間を与えない、強力なセキュリティの骨格が完成しました。
あなたの愛車は、もう簡単に盗まれることはありません!
次回予告!
第三回は、今回少し触れた 「多重防御」に本格的に挑戦します。振動センサーやドア開閉センサーなどの「トリガー」を増やして 、セキュリティの監視範囲を広げましょう!さらに、リレーを使わずにON/OFFを切り替える、半導体(トランジスタ)を使ったスイッチングにも挑戦し、装置の小型化を目指します。お楽しみに!