【入手性重視】ESP32-H2でつくる乾電池IoTの安定設計ガイド(電池寿命2年級)

【DIY】ホームセーフティ実践

はじめに:なぜ今、ESP32-H2-MINI-1なのか

IoTデバイス開発において、「小型化」「無線化」、そして「電池の長寿命化」は永遠のテーマです。今回は、省電力に特化したESP32-H2-MINI-1モジュールを使用し、単四乾電池3本で長時間動作する小型無線機器を実現するための具体的な設計ガイドを解説します。無線通信には、消費電力が非常に低いESP-NOWプロトコルを使用することを前提とします。


1. コア部品の選定:ESP32-H2-MINI-1のポテンシャル

モジュールの基本仕様

ESP32-H2-MINI-1は、Bluetooth LEやIEEE 802.15.4に対応したモジュールです。

  • 動作電圧範囲: 3.0 V 〜 3.6 V
  • 消費電力: ディープスリープモードでの電流は 数 μA レベルです。

電源仕様の決定と昇降圧の必要性

単四乾電池3本の場合、電源電圧は新品のアルカリ電池で4.5 Vから、消耗した際の3.0 Vまで大きく変動します。この変動する入力電圧から、モジュールが必要とする安定した3.3 Vを供給するために、昇降圧(Buck-Boost)DC-DCコンバータが必須となります。


2. 最も重要な設計:超低消費電力電源回路の構築

乾電池駆動IoTデバイスの寿命の99%は、電源回路の 自己消費電流(静止電流 Iq​) によって決まります。ESP32-H2のディープスリープ電流(約 3μA)に対し、電源ICの Iq​ が 10μA を超えると、電池寿命はICによって支配されてしまいます。

採用すべき昇降圧ICと入手性の比較

昇降圧ICの選定は、電池寿命を最優先するか、入手性・実装の容易さを最優先するかで選択肢が変わります。本記事では入手性の高さを優先し、ブレイクアウト基板などの利用も容易なICを中心に紹介します。

IC名 / シリーズIq​ (静止電流)入手性/実装難易度概算価格 (IC単体)推奨理由
【理想】TPS6381075 nA (ナノアンペア)低い(海外通販/PCB必須)¥600 〜 ¥1,200究極の長寿命。Iq​がESP32-H2本体よりも低く、電池寿命を最大化できる。
【汎用】TPS6302035μA高い(国内通販/ブレイクアウト基板あり)¥350 〜 ¥600試作の容易さ。電流能力が高く実績豊富だが、Iq​は超低電力用途では高め。
【国産】XC923530μA高い(国内通販)¥200 〜 ¥400コスト優先。TPS63020と同様、Iq​がモジュール本体より高いため、寿命が短くなる。

必要な部品と接続

区分部品名規格の目安概算価格 (税込)役割と備考
DC-DC IC昇降圧DC-DCコンバータICIq​と電流能力を考慮して選択¥300 〜 ¥1,2004.5 V〜3.0 Vを安定した3.3 Vに出力
電源入力単四乾電池ボックス(3本用)¥50 〜 ¥150
安定化出力コンデンサ(Cout​)10μF 以上 / 低ESR¥10 〜 ¥50無線動作安定の要。ピーク電流に対応するバッファ。
周辺電源ON/OFFスイッチスライドスイッチなど¥50 〜 ¥150
周辺バイパスコンデンサ0.1μF (セラミック)¥5 〜 ¥30ESP32-H2の VDD​ ピン直近に配置しノイズ除去
周辺プルアップ抵抗10kΩ¥10/個ENピン(イネーブル)用


3. 🚀 電池持ち(寿命)の徹底シミュレーションと比較

昇降圧ICの Iq​ の違いが、実際に電池寿命にどれだけ影響するかを、単四アルカリ乾電池3本(公称容量 900mAh)の場合で比較します。

シナリオ:1時間に1回データ送信する場合

比較ICICの Iq​合計待機電流 (Isleep​)理論上の電池寿命
【理想】TPS6381075nA≈0.08μA3μA+0.08μA=3.08μA約 15 年
【汎用】TPS6302035μA3μA+35μA=38μA約 1.8 年

シミュレーション結果の考察

  1. 超低 Iq​ の衝撃: 待機電流が 3μA 台に抑えられる理想的なICでは、10年以上の超長寿命が理論上可能です。これは、電池の自己放電(通常2〜5年程度)が寿命を決定するレベルです。
  2. 汎用ICの限界: 一般的に手に入りやすいTPS63020などでは、Iq​がESP32-H2本体の10倍以上あるため、待機電流が 38μA に跳ね上がります。その結果、寿命は約 1.8 年に留まり、超長寿命のポテンシャルを大幅に削ることになります。

結論: 試作や動作確認を優先する場合は、TPS63020やXC9235などのICを選び、約2年の寿命を許容するのが現実的です。 究極の長寿命を目指す場合は、ナノアンペア級ICの採用と専用PCB設計が必須となります。


4. ESP-NOWを考慮した低消費電力設計の要点

この機器はESP-NOWで無線動作するため、電源の安定性が特に重要です。

  1. 出力コンデンサ(Cout​)の強化: ESP-NOW送信時の瞬間的な大電流要求($100 \text{mA}$以上)に対応するため、DC-DCコンバータの出力コンデンサは、推奨値以上に大容量($10 \mu\text{F}$以上)で低ESRのものを選び、モジュールの VDD​ ピンの近くに配置してください。
  2. ディープスリープの徹底: ソフトウェアで、データ送信完了後や処理終了後には即座にディープスリープに移行させる処理を実装してください。この待機時間の管理が、電池寿命を左右します。
  3. 電源配線の最適化: $V_{IN}$から$V_{OUT}$、そして$V_{DD}$に至るまでの電源供給ライン($V_{CC}$と$GND$)は、太く、短く配線し、電圧降下を防いでください。

5. 部品一覧の最終チェックリスト(まとめ)

区分部品名備考
モジュールESP32-H2-MINI-1
電源入力単四乾電池ボックス(3本用)
安定化電源昇降圧DC-DCコンバータICIq​と入手性を考慮して選択
インダクタ(L)、入力/出力コンデンサICのデータシート推奨値に従う
周辺制御電源ON/OFFスイッチ
バイパスコンデンサ0.1 μF(モジュール直近)
プルアップ抵抗10kΩ(ENピン用)

この設計をベースに、ご自身のプロジェクトの優先度(長寿命 vs. 入手性)に合わせて昇降圧ICを選定することで、信頼性の高い超低消費電力IoTデバイスを実現できます。

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