【乾電池駆動】超小型・低消費電力!ESP32-H2-MINI-1でつくる電池長持ちIoTデバイスの設計ガイド

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はじめに:なぜ今、ESP32-H2-MINI-1なのか

IoT(Internet of Things)デバイスの開発において、「小型化」「無線化」、そして何よりも「電池の長寿命化」は永遠のテーマです。特に電池交換の手間を減らしたいセンサー機器やリモート制御機器では、数 μA レベルの超低消費電力設計が求められます。

今回は、Bluetooth LEや省電力無線規格802.15.4(ZigbeeやThreadに利用)に対応した最新の省電力モジュール、ESP32-H2-MINI-1を使用して、単四乾電池3本で長時間動作する小型無線機器を実現するための具体的な設計ガイドを解説します。無線通信には、消費電力が非常に低いESP-NOWプロトコルを使用することを前提とします。


1. コア部品の選定:ESP32-H2-MINI-1のポテンシャル

モジュールの基本仕様

ESP32-H2-MINI-1は、Espressif Systemsが提供する新しいシリーズで、特に低消費電力動作に特化しています。

  • 動作電圧範囲: 3.0 V 〜 3.6 V
  • 通信機能: Bluetooth LE 5.2, IEEE 802.15.4 (Zigbee/Thread対応)
  • 消費電力: ディープスリープモードでの電流は 数 μA レベルを誇ります。

電源仕様の決定

電池の種類1本あたりの電圧3本直列の電圧(満充電/新品時)機器の要求電圧
アルカリ乾電池1.5 V4.5 V3.0 V 〜 3.6 V
ニッケル水素(Ni-MH)1.2 V3.6 V3.0 V 〜 3.6 V

電源電圧は、4.5 Vから3.0 Vまで大きく変動します。この変動する入力電圧から、安定した3.3 V(ESP32-H2の推奨動作電圧の中央値)を供給する回路の設計が、本プロジェクトの肝となります。


2. 最も重要な設計:超低消費電力電源回路の構築

乾電池駆動の小型IoTデバイスの寿命は、電源回路の 自己消費電流(静止電流 Iq​) によって決まります。ESP32-H2がディープスリープで数 μA しか消費しないのに、電源回路が 100μA 消費していたら、電池はすぐに尽きてしまいます。

採用すべき電源ICと選定のポイント

今回の電圧変動(VIN​: 4.5 V 〜 3.0 V、VOUT​: 3.3 V)に対応するため、昇降圧(Buck-Boost)機能と 数 μA レベルの超低静止電流 (Iq​) を持つICを選定します。

必要な部品と接続

区分部品名数量接続先役割と備考
電源入力単四乾電池ボックス(3本用)1スイッチへ4.5 V〜3.0 Vの変動電源。
DC-DC IC昇降圧DC-DCコンバータIC1VIN​、VOUT​、GND、L低 Iq​ かつ大電流能力を持つものを選定。
インダクタ(L)1ICのVSW​(スイッチング端子)ICのデータシート推奨値(例: 2.2μH)に従う。
安定化入力コンデンサ(Cin​)1$V_{IN}$と$GND$の間入力側のノイズ除去。MLCC(例: 4.7μF)。
出力コンデンサ(Cout​)1$V_{OUT}$と$GND$の間 安定性の要。 瞬間的な大電流供給のため、容量大きめ(10μF 以上)で低ESRのMLCCを選定。
制御電源ON/OFFスイッチ1電池ボックスとDC-DC ICの間物理的に電源を遮断し、わずかなリーク電流も防ぐ。

ESP32-H2-MINI-1の周辺回路

  • バイパスコンデンサ (0.1μF): $V_{DD}$ピンと$GND$の間に直近で配置。無線通信時のノイズと電圧変動を抑制します。
  • プルアップ抵抗 (10kΩ): 3.3 V と EN(イネーブル)ピンの間に接続し、モジュールを常に起動状態に保ちます。

4. 🚀 電池持ち(寿命)の徹底シミュレーション

今回の設計で最も気になるのが、実際にどれくらいの期間、電池が持つかという点です。電池寿命は、「待機電流」と「動作頻度」のバランスで決まります。

A. 待機時(ディープスリープ)の消費電流

IoTデバイスの電池寿命の99%は、この待機時間で決まります。

項目推定消費電流備考
ESP32-H2-MINI-1(ディープスリープ)3.0μAモジュールのデータシートに基づく典型値
昇降圧DC-DCコンバータIC(静止電流 Iq​)1.0μA超低 Iq​ ICの理想値
合計待機電流 (Isleep​)4.0μA

B. 動作時(ESP-NOW送信)の消費電流

ESP-NOWによるデータ送信は短時間ですが、電流値が跳ね上がります。

項目推定消費電流推定動作時間
ESP32-H2-MINI-1(送信アクティブ時)100mA100ms(0.1秒)

C. 電池容量と寿命の計算(アルカリ乾電池の場合)

単四アルカリ乾電池3本の公称容量は、約 1000mAh です。ただし、DC-DCコンバータの効率を考慮し、ここでは実効容量を Ceff​≈900mAh と仮定します。

🔋 シナリオ例:1時間に1回データを送信する場合

1時間あたりの平均消費電流 Iavg​ を求めます。

  1. 待機時の消費: Isleep​×時間=4.0μA×(3600s−0.1s)≈14.4mAs
  2. 動作時の消費: Iactive​×時間=100mA×0.1s=10mAs
  3. 合計消費電荷 (1時間あたり): 14.4mAs+10mAs=24.4mAs (※ 1mAh=3600mAs なので、24.4mAs≈0.0068mAh)
  4. 電池寿命 (Days): 寿命≈1時間あたりの消費電流電池容量 Ceff​​寿命≈0.0068mAh/h900mAh​÷24h/day≈5500 days

この計算に基づくと、理論上の電池寿命は約 15 年という驚異的な値になります。

⚠️ 現実的な電池寿命の考察

実際には、電池の自己放電、DC-DCコンバータの効率低下、温度変化、およびソフトウェアのオーバーヘッドがあるため、この理論値通りにはなりません。

動作頻度推定電池寿命備考
1時間に1回送信3年 〜 5年自己放電やIC効率を考慮しても十分長寿命
10分に1回送信1年 〜 2年動作頻度が高くなると寿命が短縮
1日に1回送信10年以上待機電流が支配的になり、電池の自己放電寿命に近づく

結論として、この超低消費電力設計とESP-NOWを組み合わせることで、単四乾電池3本でも数年単位での電池交換不要な運用が現実的に可能となります。


5. 部品一覧の最終チェックリスト(まとめ)

区分部品名備考
モジュールESP32-H2-MINI-1
電源入力単四乾電池ボックス(3本用)
安定化電源超低Iq​ 昇降圧DC-DCコンバータIC4.5 V ∼ 3.0 V 入力、3.3 V 出力
インダクタ(L)IC推奨値
入力コンデンサ(Cin​)例: 4.7μF
出力コンデンサ(Cout​)重要! 例: 10μF 以上、低ESR
周辺制御電源ON/OFFスイッチ
バイパスコンデンサ0.1 μF(モジュール直近)
プルアップ抵抗10kΩ(ENピン用)
オプションタクトスイッチ、電流制限抵抗、LEDなど外部入力、状態表示用

この設計と、ディープスリープを最大限に活用するソフトウェアを組み合わせることで、電池寿命を最大化しつつ、信頼性の高いESP-NOW無線通信を行う小型IoTデバイスを実現できます。

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